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東京地方裁判所 昭和32年(レ)246号 判決

控訴人 西部自動車サーヴイス株式会社

被控訴人 小林化学工業株式会社

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の事実上の陳述は原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。被控訴人は立証として甲第一号証の一、二、同第二号証、同第三号証の一乃至六、同第四号証の一乃至五を提出し、原審竝びに当審における被控訴会社代表者本人尋問の結果を援用し、控訴代理人は立証として当審証人伊勢吉男並びに原審竝びに当審における控訴会社代表者本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の一、二の成立を認め、同第二号証の成立を否認し、その余の甲号各証の成立は知らないと答えた。

理由

控訴人が被控訴人に対し鎌田三郎の昭和二十八年十二月二十九日、控訴人宛振出にかかる額面金六万四千八百円、支払期日昭和二十九年三月十六日、支払地振出地とも東京都千代田区、支払場所株式会社三菱銀行日比谷支店なる約束手形一通を裏書譲渡し、被控訴人が右手形の所持人となつたこと、しかして被控訴人の控訴人に対する右手形の償還請求権の消滅時効が完成したことは当事者間に争がない。

しかるところ被控訴人は、右手形は控訴人が被控訴人に対して支払うべき揮発油等の売買代金の支払に代えて裏書譲渡したものであるから、控訴人は右手形償還請求権の時効消滅により右売買代金に相当する金六万四千八百円の利益を得たと主張するので考えてみるのに、およそ、手形法第八十五条による利得償還請求において裏書人が利得したと謂うためには、裏書人が後者たる被裏書人から原因関係上対価を得たことのみでは足りず、これに加えて裏書人が手形資金の提供義務者であること、又は少くとも裏書人が前者たる振出人若くは裏書人に対し対価の支払をなしていないことを要すると解するのが相当である。蓋し、裏書人は原因関係上後者から対価を得ていても、資金の提供義務がなく且つ前者に対し対価を供している場合には手形授受の実質関係において現実に何ら利益を得たことにはならないからである。これを本件についてみると本件手形が控訴人の計算において振出されたものであること又は控訴人が右手形の授受につき振出人たる鎌田三郎に対し対価を供していないことについては、被控訴人の全証拠によつてもこれを認めるに足りない。してみれば、控訴人は被控訴人主張のように利得をなしたものとは謂い難いから、被控訴人の本訴請求はその余の点につき判断をなすまでもなく失当たることが明らかである。

よつて、被控訴人の請求を認容した原判決は失当であるからこれを取消し右請求を棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎 高津環 糟谷忠男)

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